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【オリジナル小説】 ごく普通の青年が魔法使いになる話。【と、ちょっとBOOTH宣伝】

 

   

 

オリジナル小説:ごく普通の青年が魔法使いになる話。

 

 某魔法使い小説だって、幼い頃から魔法学校に通っているではないか。
 某魔法使いアニメだって、見習いからのスタートではないか。
 そもそも魔法使いのイメージの大半は少女漫画ではないか。
 朝日がつくようなテレビ局で一昔前にやってた日曜日の朝に流れるアレのイメージや、ローマ字が並ぶ国営の放送局で小学生女子がカードを操るアレのイメージ。魔法やらで戦う女子といえば最近周年祭を迎えていた学生服をアレンジした太陽系女子中学生、今人気なのは格闘技と魔法の融合系女子中学生?高校生?見てないから知らんけど。
 男でありこの春大学を卒業した俺には最新の女子系アニメなど知らない。
 大学を卒業したけど就職先が決まらず、仕方なく近所の小さいスーパーマーケットの食品部門で品出し商品整理等して働きながらの一人暮らし。入社一ヶ月。朝の八時から休憩込みで九時間拘束、ちょっぴり残業。週五フルタイムでシフトに入るフリーター生活。ブラック企業もびっくりの超ホワイトな労働環境だ。
 時給八百三十円。最低賃金。これさえなんとかなれば。
 時給低すぎてそろそろ辞めようと思っていたところだ。
 という訳で時間はあってもそこまで家に引きこもりまくってる訳じゃないのでテレビはあんまり見ない。金もない。
 しかしだ。
 俺がこのバイトを辞めたくても辞められない理由ができてしまった。
 それが魔法少女と関係がある。
 フィクション作品お決まりだった。

『ある日、ごく普通の人間である俺は、ひょんなことから魔法使いになってしまった』
 そんなお決まりの文句がぴったり当てはまったのは、たった、十分前の話だ。

 ベタだ。ベタすぎる。
 しかも、これもお決まりだ。
 魔法をまともに使いこなせないのに第一話から戦わされている。
 なう。
 夜なう。
 魔法学校もあるわけがない。見習い期間があるわけでもない。
ってゆーかなんも説明されてないし力がみなぎてくる様子もない。説明してくれそうな瞬間に敵が襲い掛かってきたからタイミングを逃してしまったようだ。
 でも敵がいるからとりあえずやるしかないと思って、仕方なく心の中に耳を澄ませた。自然とどこからか呪文の声が聞こえて復唱できたりとか、精神を集中させてチャクラを練るとか、そんな事がお決まりのはずだと思ったからだ。だいたいのアニメの主人公はそんな感じで戦っていた。
 ……これだけは今回俺には当てはまらなかった。
 しかし何も起こらなかった。俺は二十二歳にもなってこんなことをして失敗し顔から火が出そうになって、思わず池の中の鯉のごとく一回ぴょんと高く跳ねた。
 なので俺は、隣に居たスーパーで働く女性社員に助けを求めなくてはならなかった。
「若桜(わかさ)さん!!」
 俺は今の恥ずかしい気持ちを隠し通すべく力の限り声を振り絞って叫んだ。
 若桜さんは空高く、妖精の様にふわりと飛び上がる。
「俺にはやっぱ無理っス!!」
「無理じゃないですよ!笑って!稲菊(いなぎく)さん!!」
「ええええええ!!??」
 若桜さんは天使の微笑みを浮かべて文字通り空を飛びながら、漆黒のショートヘアーと、白いシフォンのワンピースを揺らした。夜間故に、その綺麗な髪の毛は目立たなかったが。
 店のアイドル店の看板、レジ部の正社員である若桜さんはまだ十九歳。見た目も小柄で可愛いしその癖巨乳だ。絵を描いたようなヒロイン気質の彼女は俺よりも年下だが、仕事に対しては優秀だった。そして今もなんだか空飛んでるしよくわからない魔法の力も使いこなしている。俺にたったさっき魔法の力をくれた?のも彼女だ。
 ただしこんな状況で笑えるわけがない。
 魔法?敵?夢でも見てるんだろうな。
 夜間九時。
 スーパーから徒歩五分で行ける小さな公園の真ん中に位置するジャングルジムのてっぺんに、俺達の敵がいた。
 ジャングルジムをも飲み込んでしまいそうな禍々しく闇に包まれた大きな靄に、吊り上がった深紅の目。まさしく悪役が型にはまったような造形。実態がないように思える。これはなんか漫画で見たことある。
 しかし実際それを目にしてしまうと足が震えてしまう。
 お化け屋敷に一人で迷子になってしまったような感覚。フィクションだとわかっているのに怖い、そんな感じ。
 それを払拭するように必死にアニメの事を考えたり、若桜さんの方を見たり、誰に紹介してんだかわかんないけど自己紹介なんかしてみたりしたが、もう限界だ。
 ぶっちゃけ怖かった。
 魔法よりもお化けよりも現実的なのは殺人だが、そんなのドラマ以外で見たことないし、そんな理不尽な恐怖体験に遭遇することなんてこんな平和な人生で、日本では一度もない。
 俺は普通の青年だからだ。正社員にはなれなかったけれど普通だ。
「若桜さん!!」
「大丈夫です!稲菊さんは笑えば良いのです!」
「なんだよそれー!」
 若桜さんは空を飛びながら、呪文を唱える様子もなく俺の周りにバリアーらしきものを張っていた。周囲が昼間のように明るく輝いている。その輝きは、その微笑みは本当に天使が降臨したのかと思えるほどに。
 しかし若桜さんは天使のように可愛いが天使ではなく人間だった。人間が空を飛ぶなんてワイヤーアクション以外に見たことはない。やっぱこりゃ夢だ。
 俺達の敵である靄は、本当は敵ではないがわかりやすく敵と言っている。
 でも敵なんて、そんな簡単に言ってはいけないのだ。
 それは魔法よりも信じたくなかった。
「早く柳楽(やぎら)さんを助けないと!稲菊さん!早く!」
 若桜さんが空を舞いながら俺に向かって叫ぶ。
 柳楽さん。
 スーパーで働くもう一人の先輩、俺の直属の上司、チーフ、食品部門責任者。
 柳楽チーフが、あの靄の正体なのだ。
 闇なんて言葉は一切似合わない、彼は食品を取り扱うスーパーで正社員やってる癖に髪の毛の色は金髪でセミロングヘア、性格もチャラさが全面に出ている芸人もびっくりのまさにパリピタイプと誰もが口を揃えて言う。実際にパーティーやってるのかは知らないが。
 そんなうちのチーフが闇の化身になってしまうとは信じられない。
 上司が、お化けだったんだぞ!!
 若桜さんはバリアーを張り終えると柳楽チーフだったものに向かって高速で飛んでいき、周囲をくるりと回る。
「私ができるのは最後の浄化だけ…!あなたが溶かさないと終わらない!!」
 若桜さんはサポートタイプと見た。RPGの僧侶的な?
「だから!そんな魔法なんかできないってば!」
「魔法じゃないです!希望の力です!だから笑って!!」
「無理!!」
 希望だか奇跡だか知らんがその摩訶不思議なもんをひっくるめて魔法って言うんだよ。
 さっきから笑えと主張する若桜さんの意図がわからない。彼女はこの状況に慣れているのだろうか、よっぽど錯乱している俺に落ち着けとなだめているように取れた。
 しかし俺はそこまで錯乱はしていない。
 漫画だ、アニメだ、と考える余裕があるのだから。怖いけどそう考えるしか恐怖から逃れられないし、余裕な女の子の前でぎゃーぎゃー怖がるのはぶっちゃけかっこ悪かった。
「今稲菊さんに与えた力は、本来は柳楽さんが持ってた希望の力です!あなたには拒絶反応がない!今の柳楽さんが闇に見えるなら、あなたにはきっとできる…!きゃ!!」
 ついに靄が動き出す。近くを飛びながら必死に叫ぶ若桜さんを闇に飲み込もうとして拡大する面積。間一髪で若桜さんはそれを回避するが、靄への周回を止めることはない。
「力のない人には決して見えることのない闇が、あなたには見える!」
 俺はどうやったらその力を発揮できるのかまともな説明を受けていない。そもそも信じてない。若桜さんが空を飛んでいる、柳楽チーフが化け物になった、それは信じざるを得ないが、俺もなんかの力が宿ったなんて、それはない。なんの変化もない。ついさっき若桜さんが少しだけ俺の胸に手を当てた、それだけだ。別に俺の胸が光ったわけでもない。それだけで魔法使いになれるなんておかしすぎる。
「たくさん笑ってください!心の底から嬉しくなって、楽しくなって、幸せになったとき、柳楽さんを希望の力で包み込むことができます!呪文なんていらないんです!原動力は喜怒哀楽の、喜と、楽!」
「それを早く言えーーーー!!!!」
 笑えってそーゆー事かい。
 だから彼女はずっと笑顔なのかい。
 俺を落ち着かせるため、なだめる為に言ったんじゃなく、その魔法を発動させる為に彼女は俺に笑えと言ったのかい。

 まあ、この状況で。
 笑えるわけねーけど。

 ダメ元で作った笑みを作った時、全くその魔法は発動せず、柳楽チーフだった靄は垂直に空へと舞いあがって、公園から消えた。
 仕事中も作り笑顔ができない俺が、こんなちんぷんかんぷんな状況で笑えるわけがなかった。
「……逃がした……」
 若桜さんはしばらくして地面に着地するとようやく真顔に戻った。
 ジャングルジムの上には柳楽チーフの姿はなかった。
 チーフは本当にあの闇になって逃げたんだと、確信するしかなかった。
 四月上旬の夜間は、まだまだ肌寒い。
 桜はとっくに散ってしまった。
 地面に落ち切った桜の花びらが虚しく風に踊る。
 こうして何も意味がわからないまま仕事は辞められなかったし、そもそも明日は休みだった。
 こりゃやっぱ夢だと信じたい。
 だから若桜さんを一人公園に置いて、無言のまま逃げるように全力で駆けだした。

 話くらい聞いておけばよかったと、朝目覚めてから思った。

 

   

突然の小説投稿ですみません。

私、趣味で物書きをしておりまして。

こちらは2016年に小説家になろうで投稿したものとなります。

(だからこの主人公の時給大分低いのね……と見返して思った)

 

https://syosetu.com/

小説家になろう